金色に輝く10月上旬の上曽我の田園風景。
今年は大きな台風もなく、稲が倒伏をしているところもほとんどありませんでした。
上曽我の田んぼは曽我山から流れてくる水と、酒匂川から流れてくる水とが入り込んでくるため、みかん、梅、キウイだけではなく田んぼを耕作している生産者も多くいます。
コンバインで粉砕された新鮮な藁の香りとくん炭を作っている(※籾殻を燃やしている)香りが秋の訪れを感じさせる頃、上曽我のベテラン生産者小酒部昇さんのご自宅を訪ねると、笑顔が素敵な奥様と人懐こい猫が迎えてくれて、昇さんは縁側で座って待っていてくれました。
この日は、ジョイファーム小田原設立30周年記念祝賀会用の動画を撮影するためのインタビューです。
動画は30年の歴史を支えてくれた生産者にスポットをあてましたが、設立当時基礎を作ってきた生産者たちの多くは7、80代となり、会場に向かうのも一苦労ということで欠席をされた生産者も多く、88歳の小酒部 昇さんもその1人でした。
農業を本格的にはじめて25年
親は農業をやっていましたが、息子の私は学校卒業後、定年まで一般企業に勤め、それまで農業に関わったことはありませんでした。
勤めに行っていた休日もゴルフや釣りをしていて、農業らしい農業はしていませんでしたが、梅の剪定だけは興味があってやっていました。
定年退職してから玉ねぎを作りはじめて、2年目の9月のお祭りの日に近所の農家さんから「ジョイファーム小田原」を紹介されて、前の事務所(※旧事務所)に何をするわけでもなく、よく遊びに行きました。
ですので、生産者として本格的にはじめたのは25年前です。
農協などでは農産物を出した際に減点方式と呼ばれる方法で一括で農産物を評価されてしまうのですが、ジョイファーム小田原では自然にも人にも優しい農産物を評価してもらえて、量も安定して出荷できるところが良いですね。
ジョイファーム小田原に入ってからは特に長谷川前社長と鳥居現社長にはお世話になり、いろんなところに連れて行ってもらって勉強をしました。
山梨に剪定の勉強にも行きましたし、奈良に行って産地の取り組みを勉強したり、千葉に行こう!と言われてわけのわからないまま車に乗って、あちこち畑を見たり寄り道をして、結果として生協の集まりだったのかなぁ、なんてこともありました(笑)
しかし、その集まりの場にいた生協の方々のお話は新鮮で、本当に面白く、とにかくやってみようという刺激を受けたので、印象に残っています。
その数年後、生協との交流事業として農の学校(※NPO法人小田原食とみどり)を立ち上げた際は曽我みのり館裏の畑を一から開墾からしよう!と鳥居社長から提案があってしましたよ。
当時は草が生え放題で、集まった生産者が一斉に草刈をして…トラクターで耕そうとしてもトラクターの歯が跳ね返るほどゴミも石もすごくて…鳥居社長のおじさんからユンボを借りたりしてなんとか畑になりました。農の学校がはじまる時にはおだてられてはたけの学校の校長先生になったり、たんぼに使う機械を寄付したりと深く関わっています。
交流事業とは「はたけを通して目で見て安心して商品を買ってもらえる」ということなので、大切にしてきました。
それと毎年6月にはNPO法人小田原食とみどりと小田原食と農の交流推進協議会の総会があるのですが、出席すると生協の理事さん達に直接会えて、「今年は小酒部さんの梅が届きました!」と言われて、今年の梅の出来栄えの評価が聞ける嬉しい場でもありました。
組合員さんの集まる交流の場にも行かせてもらう機会が何度もありましたが、組合員さんに囲まれて質問をされることがあります。
そんな場では決していい加減なことが言えない。
帰ってきてから他の生産者にどんなことがあったのかと報告する機会もありますが、「交流の現場に行った」ことが大切なのではなく、「交流の場に行って何があったのか」を話し学ぶ良い機会だと思うのです。
新しくチャレンジする勇気
私が耕作をしているのはたんぼ2反5畝、みかん1反5畝、梅4畝です。
農業は本格的に25年やってきましたが、最近になってようやく作物の気持ちが分かってきたな~と思う、このタイミングで引退も考えるようになりました。
最近ではみかんも梅も徐々に耕作面積を減らしているような状況です。農業に欠かせない車の運転もそろそろやめたらどうかと息子に言われていますので、来年こそは出荷をすることは難しいかな…と思っています。
息子家族がすぐ隣に住んでいるのですが、彼もまた働きに出ているもので、農作業を手伝ってはくれていますが、手でする仕事はなかなかしてくれませんね。
最近では農業機械の発達が目覚ましく、便利な機械が増えました。若い子はそういった機械を使う仕事はしますが、面倒だと思う手仕事は嫌がる傾向にあります。
手仕事とは、例えば草刈りをすることです。
草との戦いでも自分の手で経験しないと、基礎が分からなくなってしまい、挫折をしてしまう。うわべだけの「農業」では続かないので、是非若い子には基礎から頑張ってほしいですね。
私が特に生産に力を入れているのは梅ですね!
産地に勉強に行くと剪定の方法はいろいろあるのですが、どうしたら実らせる木になるかの追求については、たしかに小田原ではもっと強い剪定が求められるとは思うのですが、それだけではないと思います。
私は前から欠かさず行なっている農法があるのですが…1月の元旦を除いてそれ以外は4日まで梅の木に潅水しています。これは、この後咲く花を大きくするためです。
花が大きくならなければ受粉が難しくなるので、十分に染み込むように梅の木1本あたり最低でも1tの水やりをしています。うちの裏には池があるのでそこから水を引いてやっているのですが、水道水を使おうとするととんでもない量ですよね。
最近では気軽に使える農業用の水道や川がなくなってきていますから、他の生産者がどこから水を汲むかは頭の痛い問題です。
みかんも木が養分を吸い上げる6~8月の3ヶ月は水が重要ですよ。フルーツの栽培が盛んな山梨などは農産物用のスプリンクラーがあり、10日以上雨が降らない場合は水をきちんとやっているのです。
よく、「寒さで実がすかすかになった」と小田原の生産者は言いますが、果たしてみずみずしいはずのゴールデンオレンジや春峰がすかすかになる理由はそれだけでしょうか。
ここ数年は確かに異常気象が多いのですが、他産地はそれでも農産物を作れているのです。
「気候のせいだからしょうがない…」というのは生産者の悪い口癖ですね。基礎を知った上で誰かが何かにチャレンジしていかないと、いつまでも結果がついてこない。
私ももっと若ければさらに収量を上げる方法はないか検証して、人に証明ができると思うのですが、それができないのが残念です。
是非、若い世代に色々な農法を試して解明してほしいです。
ジョイファーム小田原は私にとって、第2の「人生の勉強の場」だと思っています。
農業をはじめれば、地域の人達にお世話になる。ですので、地域の行事や役は可能な限り引き受けてきましたよ。同時に役を6つやっていたこともありました。任意団体の仕事は断りませんでしたね。そうやって地域との関わりも学ぶことができました。
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最近では昇さんのご自宅に息子さんの奥様とお友達が集まり、ヨガ教室を開いたそうです。フラットな畳のお部屋がヨガにはとても良い!と好評だったとか。