今年は3月頃から気温が高い日が続き、農産物の収穫が早まっています。
新緑がいよいよ夏を予感させる頃、田植えの準備のため、桜井地域の生産者達がトラクターに乗り、たんぼを耕していました。
桜井地域とは小田原市の北西部に位置しており、酒匂川・仙了川・要定川が流れ、豊富な水で育てられる米のほかに梨の栽培も盛んです。また、桜井地域は「二宮金次郎(尊徳)」の生家があることでも有名です。
「昔は栢山も鬼柳も梨農家がたくさんいたし、あちこちに直売所があったんだけど、うちのそばの梨農家も最近やめちゃったんだよ」と話すのは竹井善行さん。
善行さんは栢山でお米、ぶどう、みかん(雑柑含む)、ブルーベリー、玉ねぎ、梨を栽培しています。
20歳で生産者デビュー
俺は高校卒業後は農業大学校(※現在のかながわ農業アカデミー)に入ったんだ。
うちは親が米と梨の農家だったんだけど、在学中2年目に自分でハウスみかんをはじめたんだよね。でも今、ハウスみかんはやっていないんだ。
まず、過去3回の重油の高騰で採算がとれないなと感じたんだ。
それにね、ハウスみかんってものは生産者の体に負担がかかるんだ。
消毒はハウスの中で行なわなきゃいけなくて、ただでさえ暑いハウスの中で、完全防備だから汗まみれ。消毒の回数も多いんだよ。そんな負担が少しでも軽くなるようにと「くん煙剤(※置き型の散布機)」を使ったときのことだった。
当時うちのハウスは9連棟で、くん煙剤をつかう場合は薬剤を吸引しないように9棟の1番奥から1つずつ順番に着火していかなきゃいけないんだけど、3棟目まで来て後ろを振り返ったら…なんと!1番奥の棟のくん煙剤に着火していなかったんだよね。
すぐに口元をふさいで引き返して付け直したんだけど、やっぱり途中で吸引してしまって、だんだんと呼吸ができなくなる中毒症状が出て、本当に苦しい思いをしたんだよ。
それと、換気扇の問題だね。ハウスみかんってものは熱がうまく循環しないとみかんの木が焼けてしまうんだけど、うちでは過去2回、換気扇が止まったことがあったんだ。
1回はかみなりが落ちたとき、もう1回は強風でビニールが飛んで換気扇にからまった時。
たまたま2回とも巡回していて早めに気がついたから大事には至らなかったけど、ハウスみかんをやってた頃は何度も換気扇が止まって木が焼ける悪夢で目が覚めたよ。やめてから全く見なくなったね(笑)
本当に肉体的にも精神的にも限界だったんだなと思ったよ。
今は少量多品目。この方が1品目が不作だった場合に補えるからね。
うちは米栽培もやっているから、忙しい時期は5月~6月と9月かな。でも年間を通してまんべんなく忙しいよ。
つい最近では菜花栽培をやめたかな。菜花は中腰での収穫作業で腰に負担がかかるんだ。今はレモンに植え替えをしているよ。レモンのいいところはA、B、C品全て欲しがる人がいるところかな。
今年は玉ねぎにベト病が出ているね。ベト病は同じ場所で栽培していると出やすい病気だから、畑は3年ごとに耕作場所を切り替えているよ。
今年は早くから暖かい日が続いているからどんな作物も生育が早いと感じるね。1週間~10日間ぐらいかな。他の生産者も同じだと思うけど、5月に収穫していた玉ねぎは、今年は4月に収穫をするようだね。これから先、梅の収穫なんかも早まるんじゃないかな。
ジョイファームには設立当時からは加入していなくて、旧事務所から現在の事務所に変わる直前くらい(20年ほど前)かな?現社長の鳥居さんに出荷しないかって誘われたんだよ。
ジョイファーム小田原のいいところは色々な農作物栽培の栽培について学べるところだね。先生がたくさんいる!
例えば柑橘なんかは米神の広石さん(※ブログ公開中:「作る人も食べる人もわくわくするような柑橘を」参照)がとても詳しいし、ほとんどのノウハウはジョイファームの先輩たちに教えてもらったようなものだね。
ぶどうはそんなに作っている仲間がいないから、下中の小澤さん(※ブログ公開中:「三世代力をあわせて取り組む農業」参照)に聞いたりもする。
みんなで野菜の産地に視察に行ったこともあったね。ジョイファームのメインは果樹だけど、野菜農家のボカシ肥料の使い方とか、有機肥料の扱い方を学べるいい機会だった。
産地によって果樹の剪定も違うって聞くからぜひ実際に見に行きたいんだけど、同じ品目を栽培していたら当然自分も同じ時期に忙しくなるから、なかなか行くことができていないんだ。
変わり行く小田原とともに
うちは家庭菜園もやってて、とれたものを直売所に並べているんだ。
今日は「絹さや」を並べてるよ。近所のテニスクラブのお客さんや散歩で通る人が買ってくれるから今日のうちの夕ご飯のおかずが少し豪華になったりする(笑)
最近ぶどう畑周辺にハクビシンが出て困っているんだ…ハクビシンがブドウを食べるって意外かな?ブドウは1房が高価だから食べられてしまうと収入に直結してしまう、だから畑に罠を2つ仕掛けているんだ。今日はかかっていなかったね。
隣町の南足柄にも畑があるんだけど、これはうちのすぐそばに明治製菓が出来ることになって、農地を一部手放したんだ。そしてその代わりに南足柄に土地をもって、キウイ、なし、みかん、ブルーベリーの栽培をしているよ。
栢山も農家をやめる人が増えていて、土地を売ってしまって、あっという間にここも新しい住宅に囲まれてしまった。
小田原は1圃場あたりが狭いから、小規模農家が多い地域だね。うちは耕作面積としては、1町と3~4反くらいあるかな~…
計算上では収入1000万円は目指せるはずなんだけど、実際はそうはいかないものだね。それと資材の購入で経費がかかるから、1000万円売り上げても残るのは半分以下になってしまうよね。
うちは主に妻と俺で畑仕事をまわしてて、パートさんはいない。
忙しいときは息子に手伝ってもらっているんだけど、息子は別に仕事をもっているんだ。今の農家の息子は皆別に仕事を持っているだろうね。農業に向いている職場に勤めているから継いでもいいと思うんだけど、まだ農業に目覚めてはいないかな。
さて、たんぼの準備の前に今日も南足柄の畑に行かなきゃ。
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「これからまた忙しくなる」と話す善行さんの横顔は初夏を感じさせるさわやかな笑顔でした。