小田原では梅の蕾が膨らみはじめると、菜花の収穫が最盛期となります。
日本での菜花の産地といえば千葉県や徳島県が有名ですが、ここ小田原も菜花の生産が盛んです。菜花は地中海沿岸や中央アジア、北ヨーロッパが原産で、日本には奈良時代に中国から伝わり、食用として広まったと言われています。
最近では食卓を華やかにしてくれる「エディブルフラワー」がブームとなって人気を集めていますが、菜花などをはじめとするアブラナ科の花や蕾というのはやわらかく、食用花として古くから日本人に認知され、愛されています。
そんな菜花の生産者に今年から加わった高橋陽介さん。
2月の中旬に畑に伺うと、まさに菜花の摘み取りの最中でした。出荷できる菜花は花が咲く前の青々とした蕾だけ。しかし花が咲いてしまった蕾もきちんと摘み取り、几帳面な性格が畑にも表れています。
陽介さんの栽培品目は「野菜」のみ。県内では秦野市や県央、はたまた三浦半島などでは野菜栽培が盛んですが、小田原では米や果樹を中心に生計を立てている農家が多い土地。
それでも、あえてこの小田原を選び、野菜農家になったその理由とは-。
就農4年目!
もともとクリエイティブな世界(ゲーム制作等)で働いていましたが、脱サラをしました。
40歳手前になって、好き放題に生きたいなと感じたし、自分で物事を決めたいなと思った時に、「農業だ!」と思い、「かながわ農業アカデミー」で1年間学び、就農しました。
何か農家をするならコンセプトを持ったほうがいいなと思ったんですけど、好きなものは「酒」! 自分の作ったもので呑めたら最高!と思ったんです。
だから耕作している品目は全て酒のつまみとしていいと思うものを作っています。癖のある野菜もやりたかったんですけど、癖のある野菜って嗜好品の扱いを受けて、数が出ないんですよ。
今は菜花・枝豆・白菜・春菊・わけぎ・玉ねぎ・キャベツ(今年からはじめました)を育てていて、今期の菜花からジョイファーム小田原に加入し、今年の5月には玉ねぎの出荷も予定しています。
ジョイファーム小田原に加入したきっかけは菜花生産者の磯崎さんの紹介です。
今までは主に秦野市に納品に行っていたんですが、往復の運送費がかなりかかるなと思って。小田原市内の市場に持っていくにしても交通渋滞に巻き込まれる場所にあって、生産者がなかなか持ち込めないんですよね。近くにジョイファームがあって良かったです。
小田原であえて野菜中心の農家
小田原市内って果樹生産者が多くて、野菜だけでやっている生産者はほとんどいないんです。僕は逆に果樹の売り方ってものが分からないので…やっていないんです。
果樹は野菜に比べて自分もそんなに食べないし、一般家庭でも野菜ほどは一度に消費はしないんですよね。それならば、自分が好きな品目を作ろうと思いました。
僕の場合1人で農家をやる気だったから、野菜作りにはある程度の平地がいいって条件と、将来ブランド化したいって思った時に「小田原」って通りのいい地名がいいなって思いました。
ほどよく町も近いし、東京は近いから家族の就職先だってたくさんある。
う~ん…理屈はいっぱいあるんですが、単純にこの地域が気に入っちゃったんですよね。
たぶん、農業が先進的な地域だったらその土地で農業をやろうと思ってもとにかく人間関係が大変だと思うんですが、小田原ってそれがないんです。
若者が「農家になります!」って言えば、先輩たちが「お!じゃあ頑張れよ!」みたいな感じで受け入れてくれる、いいところですね。
ただ、残念ながら拠点にしようと思っていた曽我地域は土地が野菜づくりに向かなくて…
曽我の地域はたんぼ(米作り)が盛んで、夏場の中干しの期間中にも完全には用水路の水を止めることはなくて。場所によっては畑にも水が入ってしまい、枝豆作りができないなあと思ったんです。
今は曽我の畑のほかに大井町に畑を借りています。大井町も定期的に地主さんが草などを刈って綺麗に管理はされているものの、借り手を捜している農地はたくさんあります。まとまった場所に畑がたくさん借りられていることも嬉しいですし、まさに野菜作りに適してる土なので、今後はこの周辺を拠点にしようかなと思っています。
今後の連作障害(※特定の作物を同じ場所で何年も栽培していると枯れたり育ちにくくなったりする障害)も気になっていますから、耕作する農地はもっと広げたいですね。
今年の菜花の様子は…?
今年は株が大きくならなくて、もしかしてうちだけなのかな~と心配になったりもしますが、納品がてらに仲間の菜花畑をみたりすると同じようにやや小ぶりのようです。「よかった!うちだけじゃなかった!」と気がついたりします。今後同じ菜花生産者の集まりがあれば、先輩には摘心の位置を教えてもらいたいと思っています。
前は毎日菜花の収穫していましたが、3日に1回のペースがちょうど良い成長ですね。
来たからにはとりたい!ので。1日7コンテナくらい収穫が目標です。
今年は天候不順で、株全体の丈がもう少し伸びてもいいはずなんですが…
一部ではもう蕾が終わりかけているところもあります。
これは寒波が良くないんだと思っています。株ごと弱ってしまい、復活は厳しくなります。
側枝を伸ばすには早いうちに太い主枝を摘み取ると、ひょろひょろした側枝ではなくて、収穫に向いている十分な丈の菜花がとれるようになると分かり、そのように切り方を変えました。マニュアルなんかを読むと、「わき芽を切る」としか書いてないんですがね。
ただ、主枝を切ってしまうので全体の丈は低くなり、収穫時に膝を少し屈めないと効率よく収穫ができないのがつらいです~!(笑)
生産者によって菜花も栽培方法が違います。出荷できる丈ぎりぎりに切る人もいれば、十分な丈に切って、そこからまた切りそろえる人もいます。
株間なんかも、菜花を多く作っている久野地域の生産者は株間が広い人が多いですね。
うちは40~60cmくらいで、場所によっては二さくで作っています。
他の生産者を見習って太陽がよく入る方向に並べて植えてあげたら、生育が良くなりました。しかし、菜花の産地、千葉に比較してみると収量は半分ほどしかなく、これが肥料なのか気候なのか、はたまた技術によるものなのかは気になっています。
農家になってみて-新たな決意-
実は農家になってから奥さんと出会い、結婚して、去年の12月に子どもが生まれました!
今は奥さんと子どもは里帰りをしているんですが、平日はしっかりと働いて土日は奥さんの実家に行っていますよ。
野菜農家は朝から晩まで働き続けなければならない厳しいものだと思っていましたが、ちゃんと段取りを組めば休むこともできるんですね。
人目のつかないところで1人仕事をしているので、何かあって倒れていても分からないって、僕が日が落ちる頃に帰ってきていないと心配してくれています。
みんな嫌がるかもしれないけれど、将来農家ではGPSで生産者の位置を把握する日がくるかもしれませんね(笑)
あ、僕youtubeに動画をあげているんですよ。
作業の前からずーっと撮り続けてるだけなのでおもしろくはないです(笑)
単純にサボりそうだったから何か理由をつけないとモチベーションが低くなるからとはじめました。フリーランスの友達がいるのですが、1人でやっていくのに会社勤めのようにモチベーションを保つのって大変そうに見えます。農業でも「今日は暑すぎるから後で…」みたいな言い訳はたくさん出てくるので…。
あと、確定申告や農業計画書の作成には映像で記録が残るので、振り返りに役立ちます。Youtubeは動画が無制限で掲載できるので、1年前のこの時期はどんな作業をしていたっけな~と思ったら見返せて便利なんですよ。
この動画は主に親族が見ていて、奥さんの両親も見てくれてます。
奥さんには畑での作業を「今日こんなことがあったよ」って簡単に話すくらい(だって人の出てこない作業の話をずっとされても面白くないじゃないですか。)なので、動画で見ている親族のが僕の畑の事情に詳しかったりします。
子どもも生まれたばかりですし、今食べていけるとは言ってもオムツ代はきちんと稼がなきゃいけない。きちんと独り立ちをして、家事と農業の両立ができなければと思っています。これからも小田原の菜花をよろしくお願いします!
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インタビューの終わりには摘み取った菜花をその場で豪快に食べる陽介さん。まぶしい笑顔で「うまい!」と一言、菜花への愛と農業への充実ぶりを感じました。