9月下旬。コロナウイルスが急増し、心配された8月からは徐々に落ち着きを取り戻しつつあります。行動制限も緩和され、市内でもさまざまなイベントが久しぶりの再開となりました。
最近ではジョイファーム小田原の交流企画も感染リスクを考慮して若手生産者が中心となって交流に参加してくれていますが、就農をしたばかりの若手生産者はキウイフルーツをメインとして農業を営んでいる事が多く、なかなかみかん農家になりたい!なった!という人が出てこないのが現状で、柑謝祭などのみかんの交流企画ではベテラン生産者に声をかけることもあります。
1970年代のみかん価格の暴落後、農業はみかんでは食べていけないと、経営視点で避けられる傾向にありました。また、市場では皮を剥かなくても食べられて、糖度の高い果物が人気を集めており、徐々に肩身がせまくなってしまったみかん。
そんなみかんの歴史と栽培技術を大事にしながら、暖かい気候を活かした晩柑の栽培をすることで1年中収穫ができる土地として月日をかけて生まれ変わったのが石橋地域です。
「今就農するならいろいろ栽培できる石橋地域がおすすめよ!」と言うのは婦人部の石橋地域メンバー、大浜 敦子さん、矢郷勝代さん、鈴木 かつ枝さん、青木百合子さん。
婦人部はジョイファーム小田原の生産者の奥さんが結成した部会で、初代婦人部長は大浜敦子さんです。
実は、婦人部を結成する前から交流活動をしていたという、石橋の皆さんの思いとは__。
◆婦人部結成のきっかけを教えてください!
ジョイファーム小田原では女性が生産面だけでなく、交流も積極的にしてくれています。
各支部の主に生産者の奥さんが集まり結成した「婦人部」は、調理や加工品作り、視察や農体験の受け入れなどをしてくれています。
石橋地域では婦人部として積極的に活動を行う前から、主に生協の組合員を中心に活動を行っていたと言います。
(矢郷)石橋では20年以上前からみかん狩りやジャム作りをしていて、お昼にはごはんだけ皆さんに持ってきてもらって、手作りのカレーやお吸い物を振舞ったりしていたのよ。
昔はみかん栽培が盛んだったので、バスで来てもらって佐奈田零社に駐車させてもらって。10年以上前になるけれど、ジョイファーム小田原で企画して、ネーブル狩りもしたことがあるの。
今は大規模に実施しているオニオン祭(※2019年から3年間お休みの後、規模を縮小して今年は再開)も、私たちは玉ねぎを作っていないし、はじめは曽我の生産者のみ、小規模で行なっていたようですが、だんだんと規模が大きくなってどの地域も呼ばれるようになったのよね。
オニオン祭では婦人部が小田原産玉ねぎたっぷりの自慢のカレーを作るの。
若かったから、寸胴鍋いっぱいにカレーを作って1人で移動させるなんてこともできたのよね…笑
(大浜)当時石橋ではそんな交流活動をしていて、その後「ジョイファーム小田原婦人部」として市内の各地区から出揃いました。最近では「ジョイマダムのみかんジャム」作りで婦人部は冬に集まりますね。でも、集まったらすぐ作業に取りかかるのでなかなかみんなでゆっくりお話をするような機会もないですね。石橋の私たちも車に乗っていて畑ですれ違ったり、仕事中に会っても慌ただしいことが多くて、立ち話も少し。今日みたいに改まって婦人部として集まるのは珍しいかもしれないですね。
◆果樹の学校や産地との交流もしてくれていますね。
(矢郷)昔、お子さんが幼稚園生くらいの頃にブルーベリー収穫をしたご家族が、毎年シーズンになるとうちへ収穫に行きますって電話をくれるの。もうお子さんは高校生になったのかな。ここへ来る途中に県内のあちこち寄ったみたいで、お土産も下さったの。
うちは観光農園はしていないのですが、自分たちで収穫してくれると言うのはいいですね。
(大浜)産地交流はいろんな人の話が聞けていいですね。もっと消費者と話したいと思っています。ただどうしてもみかんの収穫シーズンは忙しくてどこにも行けなくなってしまいますね。
◆消費者に知ってほしい「本当の味」
婦人部の皆さんはこれまでも消費者に向けて農産物への理解につながるように努力をしてきました。しかし、青果店などを訪れた際にまだまだ見た目が優先されていることを感じると言います。
(青木)柑橘は味の基準として甘さ(糖度)を求められ、酸味が避けられることがあるのですが、近年はどこか柑橘の「おいしさ」という感覚が失われつつあるような気がします。甘いだけの柑橘は味がぼけていて、生産者からするとあまりおいしくないと思ってしまいます。酸味があってこそ、柑橘のさわやかな甘味が引き立つのですよね。
それと、私たちは必要以上の農薬は使用しない栽培をしているので、外観がピカピカのみかんは提供できないのですが、この農薬を使わないという基準はなんのために「売る側」が決めているのか、交流で話していかなきゃいけないですよね。
食べ物に関しては食べ方を含め、本来であればもっと学校で教育をしてもいいと思うのです。私たちの身体になる食べ物の話をもっと身近な題材として扱う時間があってもいいですね。
うちは直売もやっているのですが、ゴールデンや不知火は若い子も知っているので人気ですね。でも、どの柑橘も1年中売っているものだと思っている子もいますよ。
最近では市内外にこだわったくだものを使ったジェラートやさんなども増えていて、加工で食べてもらう機会も増えました。高くてもいいものを売りたいという地元のお店が増えたのはうれしいことです。
(鈴木)最近買い手が変わってきたと感じています。生協は、子育て世代の利用が増加していますね。また、感染症流行の影響で買い物の新しい形としても注目されましたね。
新しく興味を持ってくれている人が加入したということは、まだまだジョイファーム小田原の厳しい基準はなんのために決められたものなのか知らない人が多いということだから、もっと私たち生産者の思いを伝えていけるようにしないといけませんね。
剪定まできちんとできれば虫が寄り付きにくい木にすることができて、虫は減り、農薬を使わなくて済みます。剪定の技術を向上させるために生産者間で集まって、技術を実証し、協力をしていく必要がありますね!
◆現在の石橋の農業
(矢郷)昔は冬に東北から来た人をやとってみかん収穫をしていたので、その人を雇えるような収入がまとめて得られなくなった今は家族だけで短期間に大量に収穫することになるのでやりきれないのですよ。
みかんは一度収穫すると貯蔵庫へ入れないといけませんし、棚へしまった後もかびが出たらハネなければいけないし、手がかかります。
晩柑類はロスもなく、その場でコンテナに入れて出荷することができます。晩柑は品種によって収穫時期もちょうどよくずれていて、うまく作物を組み合わせることで1年中何らかの作物を収穫することができるのですよ。今ではうちも夏場のブルーベリー収穫もありますのでずっと収穫です。
でも、そうなると今まで夏場にできていた草刈までに手が回らないのですよね。石橋ではどこの農家も夏場の草刈が課題となってきています。
柑橘農家としてはバレンシアオレンジのような繁忙期から外れて収穫できる柑橘は助かります。バレンシアは味も外国産よりおいしく、生協の評判もよくて嬉しいです。
個人販売では試食を設けないとなかなかバレンシアを買ってもらうことが難しいのが現実ですね。
皮が硬く、サルも皮を剥けないので食害もありません。
(青木)実はビワやプラムの栽培も昔はやっていましたが、サルの被害がひどく、明日収穫をしようと思っていると、あっという間に一晩で全て持っていかれていました。
ほかにもこの地域ではハウスみかんに切り替えた生産者も多かったですね。でも重油の価格が上がる一方で、このままでは食べていけなくなる!と早い段階でやめました。
(大浜)私の親が第一線で農家をしていた頃にレモン栽培が良いと言って苗木を植えたことがありました。当時は外国のレモンがブームで国産のレモンは需要がなく、結局やめてしまいましたが、今になって空前の国産レモンブームになりました。レモンは大・中・小サイズ、どれでも用途別に需要があり買い手に喜ばれていますよ。ブームって巡るのかもしれませんね。
◆ 新規就農を考える人達へ
この日は百合子さんとキウイの圃場を見に山に入りました。
近年は耕作を放棄された畑が増え、くずのツルが畑を覆っています。山中を車で通りすぎるとあちこちに竹林が目に入りますが、よくよく見てみるとみかんやキウイフルーツの耕作がされていたであろう「畑」なのです。
畑の奥にはかつてシーズンになれば活躍したであろうみかん小屋やキウイ棚が埋もれており、そうした畑は容易に奥まで進むことはできません。ここまで荒れてしまうと「開墾」からスタートしかありません。
(鈴木)ここ数年、新たに石橋に就職する若者はほとんどおらず、地域の大きな課題となっています。そして、地域としては後継者が欲しいと思っています。
自分達の子どもに後を継いでもらうのを期待をしているばかりではなく、別の土地から就農する若い方や企業が農業参入して、少しでもうまく農地を継ぐことができればと思うのです。
研修後にこの地域で就農する場合、荒れ果てた土地を1人で開墾するより、今継いで、就農1年目からしっかり収入になるようにしておかないと、農家1年目収入は大変厳しいものになります。
今の制度ではなかなか助成金の審査さえ厳しいと聞きますし、アルバイトをひたすら掛け持ちをする厳しい生活になってしまいます。
一方、もう耕作しきれないと思いつつ土地を手放してはもったいないと生産者も多いと思うのですが、草刈や剪定が追いつかなくなって急速に荒れてしまえばそこから農地はすさまじい早さで荒れていきます。ですから、まだ手がつけられるうちに誰かに貸した方がいいと思うのです。最近石橋では「オレンジホームファーマー(※農家資格がない人が環境保全を目的に柑橘の耕作活動をする制度)」の受け入れ地を拡大する動きがあります。石橋にも柑橘の剪定が得意な方がいたのでよく講習会をしていましたが、もう歳でやらなくなってしまったのです。また、お手伝いを頼むにしても、剪定ができたシルバーさんも皆引退してしまって…。誰にも縛られず農業ができる…ということで農家になる人も多いのですが、技術がある人と情報交換を出来る機会は貴重ですよ。
(大浜)就農資格の取得は敷居が高いと感じます。今現在実際に受け入れている大ベテランの農家でさえも研修受け入れと自分の仕事の両立が厳しいと感じていると聞きますから、途中で挫折してしまったら受け入れた側も負担が大きいと感じます。今の制度では仕方のないことかもしれませんね…。
世界情勢の雲行きもあやしく、相次いで農業資材・肥料の値上げが起こっています。今後は輸入に頼れなくなりそうなものがたくさんありますよね。果物もその中の1つではないかと思うので、国産農産物を見直して欲しいですね。