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なんでもやらないと農業はできない


レモンの出荷シーズン終盤となりました。

数年前から国産レモンの注目度が高まり、ジョイファーム小田原に集まるレモンも多くの方に興味をよせていただき、残りわずかとなりました。

レモンは市内の生産者だけでなく、湯河原町の生産者もレモンの出荷をしています。湯河原からジョイファームの集荷場までは片道でおよそ25km、所要時間は1時間ほど。神奈川県の最西部に位置し、温暖な気候に恵まれていることから柑橘栽培が盛んです。

「工事中の農道が完成したらもっと早く行き来できそうなんだけど」と話すのは生産者柏木哲(かしわぎさとし)さん。

のどかで見晴らしの良い哲さんのレモン畑から見える「鍛冶屋橋」周辺では、工事がすすめられてはいるものの、完成には至っていないことが分かります。

 

農道とは「小田原湯河原広域農道」のことで、小田原市南西部から湯河原町にかけての丘陵地の農産物集出荷や観光農業の活性化を目的として整備がすすめられている農道です。

しかし、山の傾斜の整備をすすめる上で傾斜地への重機の運搬が難航していることなどから、当初の予定より工事が遅れており、現時点では部分開通の目処しかたっていません。

 

ジョイファーム小田原から哲さんの自宅へ行く時は出荷関連のことが多いのですが、今回はレモン畑の写真撮影とお話を聞くために電話をかけたところ、「もうそろそろレモンを収穫しようかと思っていたんだ」とのことで、あわててお邪魔をしてきました。

山を開墾して作ったレモン畑

曽祖父はもともと農家出身でしたが、独立して家を出て山を開墾し、みかんを植えたことがはじまりです。自分は4代目にあたりますが、曽祖父が開墾した土地が十分にあり、仕事として農家をやっていけるような面積があったので継ぐことにしました。それがなかったら継いでないでしょうね。

現在28歳になる息子も一緒に農業をやっていて、息子は野菜を中心に栽培していますが、私と一緒に柑橘栽培もしていますよ。若いので肉体仕事を中心にお願いしていますね。

栽培しているのはみかん、レモン、不知火、ゴールデン、ゆず、ブルーベリー、キウイ、野菜と…晩柑はいろいろ作っています。それとお茶の木もありますね。

本当にいろいろ栽培しているので、1年間で何も出荷がない日っていうのがないですね。

 

今から2030年ほど前に、温州みかんの減反政策(※減反政策とは過剰生産になった生産量を調整するために代わりの作物に転作させること)がありました。うちのレモン畑も当時は早生みかんをたくさん栽培していましたが、じゃあ変わりに何を植えようかと考えた時に、皆と同じものを作ってもしょうがないと思ったんですよね。植えるものがなかったんです。

そんな時にふと、レモンはいいんじゃないかと思ったのがきっかけですね。

当時はレモンといったら輸入に頼っていたし、まだまだ広島産のレモンの知名度も低かった頃。今後国産レモンが注目されるんじゃないかって思いはありました。

ジョイファームでもレモンはほしがっていたけれど、当時はかいよう病がひどくてしばらくはアグリマイシン(農薬)を使っていましたから出荷ができなくて。

 

もちろん、今では使っていません。

ここの山の斜面に植わっているレモンは風が当たらないので果皮が葉でこすれて傷ができることもないので綺麗です。

レモン畑は段々が急なので農作業中に怪我をしそうになったことは結構ありますね。消毒をしていて夢中になって後ろを確認せずに1歩下がったら足元が崖で危なかったことも結構あります。脚立から落ちたり…。用がなければ誰も通らない場所で作業をしているので、1人で作業中に何かあったら誰かに気がついてもらえるまで数時間かかるなあと思います。

 

ここの畑はA品とB品が同じくらいとれますね。ジョイファームでは大きすぎるとB品になるんですけど、大きいレモンは調理師さんに喜ばれるんですよ。果汁をたくさん絞りたい時に手間が省けるので、需要は高いですね。

イタリアンのレストランなどはレモンの注文からお付き合いがはじまり、珍しい柑橘が欲しいと注文があったりします。

 

今ぱっとみた中でも重さが180g190g以上ありそうなものが結構ありますね。まだ小さいレモンの収穫を迷っているのですが、3月に急に冷え込んでレモンが腐らないか心配です。3月は特にあたたかい陽気から一気に冷え込むと、腐ったり黒いシミもできてしまいます。そろそろ全て収穫してしまおうかなと思っています。

ハウスみかんをやっていたけれど…

昔はハウスみかんに力を入れていた時期もあって、3反やっていたのですが、重油にお金がかかって…。

ハウスみかんって年間何百万とお金がかかるんですよ。そんな中、重油の価格が上がった年があって、ふと「このみかんを食べるということは、重油を食べてるのと変わらないな」と思ったんです。

贈答用の不知火の収穫 お母様と一緒に
贈答用の不知火の収穫 お母様と一緒に

いよいよハウスみかんをやめるって決心した前の年からは、露地のみかんをジョイファームに出しはじめました。

きっかけは、前社長の長谷川功さんが来て、父と話してくれたところからでした。

私と現代表の鳥居啓宣さんとは同じ農協の青年部で付き合いがあったし、お互いに知らない関係ではなかったのです。

湯河原は小田原の端。曽我にあるジョイファームの集荷場に納品に行くってなると半日仕事になりますね。時間はかかるけど、それでもコンテナである程度サイズわけをして出せるからありがたいですね。前は親子3人で選ってからサイズ別にわけて、箱詰めをして…1日かかっていました。

ジョイファームに出す分の準備は自分1人で済みます。折コン(折りたためるコンテナ)で出荷できるのも嬉しいです。ダンボールで出荷となると作ったダンボールを置く場所も必要になりますから。

鳥獣被害は湯河原でも

このあたりはイノシシが多く出るので、うちは罠をしかけています。

今年はくくり罠で3回逃げられてオリは1回逃げられました。くくり罠に脚だけ残っていたなんてこともあります。逆に頑丈なくくり罠のワイヤーをねじ切って逃げていたことや過去には3匹いっぺんにオリに入っていたこともありましたね。

隣の畑から入ってくるので、畑を柵で囲っています。簡単な柵だけど、何もしないよりは効果がありますね。それでも熟れたみかんの香りを好むようで、柵の下の土を掘り返して進入してくるんです。

豚コレラの影響で湯河原町はいのししを捕まえても販売はできないので、埋めるか焼却するしかできなくて…前に膝くらいの深さの穴を掘ってイノシシを埋めたことがありますが、彼らは肉も好物なので、掘り返して食べます。だから埋めるときは相当深く掘らないとだめですね。

 

鳥は特にゴールデンオレンジが好物で、鳥が食べ始める頃は味が良いタイミングだから、人間も食べてみて収穫する時期を決めています。鳥の味覚を逆手にとっているんです(笑)

なんでもやらないと農業はできない!

畑の斜面は急なので収穫してかごを持って降りてくるなんてことは危険でとてもできませんね。だから、モノレールを活用して収穫物を運搬していますよ。

去年1箇所モノレールを新しくしたのですけれど、はじめの急カーブだけは角度を間違えたらいけないので、プロの業者さんに設置してもらって、その先は自分と息子でレールをひきました。なんでも自分でできることはするようにしていますね。

父とはショベルカーで石を積み上げたり。はじめは思ったところに石を移動できなくて結局人の手で移動したりましたが(笑)使っていくとどんどん上達していくもので、最後の方は機械が思ったところに運んでくれるようになりましたよ。

昔水道屋さんでアルバイトをしていた経験を活かしてハウスを建てる時は排水や潅水も自分でしました。木も切り倒して自宅をたてるために山から運び込んだり。(さすがに大変で農家の仕事じゃない!と思いましたけど)

 

でも、自分でできることは自分でしないとお金はかかっていくばかりだから、なんでもやらないと農家はできないと思いますね。

ただ、ここ最近はどうしても資材の値上がりが続いています。

農家に必要不可欠なトラックも最近買い換えましたが、何社も見積もりをとって、いらない機能は省いて…にしてもずいぶん高くなったなあと思っています。

 

資材屋をはじめ4月からの値上げ予告もあるし、少しでも高く買ってもらえると嬉しいです。