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新規学卒就農者の増加への期待


世の中には本当にたくさんの職業・職種があり、資格の必要なもの、細かさが求められるもの、スピードが求められるもの、外仕事中心のもの、デスクワーク中心のもの…

 

通常は仕事内容や雇用形態等の情報を事前に求人情報で見て、自分がその企業についたらどのような働き方ができるか予想することができます。

では、農業はどうなのでしょうか。

小田原産みかん

平成 293 月に実施された「新規就農者の就農実態に関する調査結果-平成 28 年度-」*1 では、新規参入者の就農理由については、「自ら経営の采配を振れるから」(52.3%)、「農業はやり方次第でもうかるから」(38.2%)などの経営の舵取りを自分でしたいという動機が大半を占めており、農林水産省が実施した「平成30年新規就農者調査」*2 では、就農前には他へ勤務をしていた人が多く、一般企業を経験した上で農業を選択していることが分かります。

当ブログのインタビューを受けてくれた非農家出身の若手生産者は、統計通り、他業種から転職して独立農家になることを選択している人が大半を占めます。

独立農家は個人経営にあたるため、自分が経営者になります。一般企業のように上下関係に縛られず、自分で自由にスケジュールをたてられることも魅力です。

 

一方で、学生が学校を卒業後に就農・または卒業後直ちに研修などの技術習得を経て就農する「新規学卒就農者」が注目されつつあります。

昔は学生の段階で農業が視野に入っているといえば親のあとを継ぐための「親元就農」が当たり前であり、一般の学生の就職先として農業は身近ではありませんでしたが、近年は農業参入した企業の求人や情報を得られる機会の拡大や国による補助制度により身近な存在になりつつあります。

実際に新規学卒就農をしたTさんに話を聞きました。

新規学卒就農者Tさんの場合

2020年に就農した若手生産者Tさんは、大学在学中は全く別の職種を目指していましたが、調べ物をしていた際に『第一次産業』について知れば知るほど憧れが増していき、就農したいと思うようになりました。

もともと住まいが小田原であったTさんにとっては山、川、海がある小田原の第一次産業は地元の魅力を活かせる職業として、漁業・林業・農業のいずれも魅力的でどの道に進むか迷ったといいます。

 

独立就農をすると決めてからまず相談をしたのは行政と、農業技術センターでした。

行政で相談をしていくうちに研修先はジョイファーム小田原にも出荷している、生産量の多いベテラン生産者が良いのではないかと言われ、受け入れをお願いし、研修を2年間行いました。その時点では具体的に何を作りたいかは決まっておらず、野菜やお米も魅力的だと感じていましたが、お金にならなくて大変だと聞き、軸になる作物は研修先の農家で栽培を教わっているキウイにすることにしました。

小田原産キウイフルーツ

研修期間中には補助金を申請しましたが、交付には至らず、(※補助金は予算に限りがあるため交付要件を満たしていても交付できない場合もあります。)2年間は資金不足でアルバイトと研修を平行しなければならなかったなどの苦労もありました。

 

就農してからは冬のキウイ以外にも年間を通して収入が得られるような作物としてハウス栽培も検討していますが、現時点ではハウス栽培を自分一代からはじめるには十分な資金がない状態で、何事も拡大をしようと思ったら資金が必要だと実感しました。

 

予定は変更せざるを得なかったものの、Tさんはみかんを食べることも好きであったことから露地でのみかんの栽培を意識しはじめ、まずはみかんに着手すると同時に農業次世代人材投資事業(経営開始型)に申し込み、交付されれば再びハウス栽培の実現に向けて動き出したいと、計画を立て直しています。

研修期間中には最低限必要だと感じていた軽トラック、草刈り機、開葯器(※蕾から採取した葯(おしべの一部で、花粉が作られる袋状の部分のこと)から花粉を取り出す機械 キウイなどで使用する)を購入しましたが、まだまだ十分な収入になっていない今の段階では、生活費の工面も並行しなければならないため、先行投資として機器を購入することはできないといいます。


農業情報の充実や国の補助制度があるといっても学生から就農となると資金不足が深刻です。

先行投資としてどこまでローンを組むか、初期費用を回収するための計画など、独り立ちをしてすぐの生産者が悩まなければならないことはたくさんあります。

 

体力的にもこれからますます生産の場で活躍できる若手が、より技術を磨くことに集中でき、農業を継続できるような仕組みが整備されると良いですね。

 

 

*1農業労働力の確保に関する行政評価・監視  【総務省】

https://www.soumu.go.jp/main_content/000607884.pdf

 

*2 平成 30 年新規就農者調査 【農林水産省】

https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sinki/attach/pdf/index-4.pdf