コロナウイルスの感染拡大に伴い、2度目の緊急事態宣言の発令となりました。
12月に特集を組んでいたベテラン農家さんへは、まだまだお話を聞きに行きたいところなのですが感染症予防の観点で一旦はお休みをさせていただきたいと思います。
今年は毎年梅の花が開花する時期に行なわれる小田原梅まつりも人が集まりやすい行事を中止し、規模を縮小して「小田原梅の里さんぽ」として散策を楽しむ目的での開催となっていますね。
【小田原市ホームページ:小田原梅の里さんぽの情報はこちら】
https://www.city.odawara.kanagawa.jp/kanko/event/FEB/p30862.html
先日、神奈川県の黒岩知事が「不要不急の外出」は、日中の健康維持を目的とした散歩は除くとラジオで仰っていました。自宅にずっといれば良いと思いがちな「不要不急の外出」という言葉なのですが、運動も大切な医療機関の逼迫を防ぐ予防策なのです。
飲食を伴うお花見も楽しいですが、会場内は密を避けることができる観梅スポットがたくさんあるので感染防止に努めながらのお散歩を楽しんではいかがでしょうか。
さて、いよいよ花がちらほらと咲き始めた小田原の『十郎梅』。
「南高」という品種は知っていても「十郎」については、県外の人にはなかなかなじみがありませんが、ジョイファーム小田原の生産者の中にも1957年の十郎梅の誕生についてよく知っており、普及に取り組んできた人達がいます。今回は小田原の中でも十郎梅の栽培が盛んな曽我別所に畑を持つベテラン梅生産者、穂坂和昭さんに聞きました。
十郎栽培が広がる前は白加賀栽培が盛んだった
小田原は昔、北条時代に城下町として大変賑わって、兵糧や箱根越えの旅人の食べ物(健康食品)として梅の実が大変重宝して、古くから梅の栽培が盛んではあったけれど、戦後の小田原は単価が良いみかんの栽培が盛んになっていたんだよね。
どちらかといえばそれまで市内では白加賀梅の生産が盛んだったし、中河原周辺(※梅まつり会場の別所よりも松田寄りの場所)は、今ではたくさん梅が植わっているけど50年近く前はほとんどなかったんだよ。
「十郎梅」は市内の中河原地区の農家、枝野さんの栽培していた梅の枝変りによって誕生して、十郎梅が発見されてから周辺の農家で接穂(つぎほ※台木に接合させた枝を使った栽培方法)で徐々に増やしていって、うちも昔は梅酒用の白加賀なんかを中心に栽培していたのを、嫁さんと結婚してすぐにほとんどの木を十郎梅の植替えをしたからね、2人で大変な作業をしたっていうことはよく覚えているよ(笑)
名前については「小田原市梅研究会」が集まって決めました。名前については当時小田原市梅研究会の会合には市の職員も加わっていたから小田原市長、鈴木十郎さんの名前からとか諸説あるけれど、小田原の曽我の地は曽我兄弟のあだ討ちで五郎十郎兄弟が有名だし、五郎梅もあるくらいだからおそらく曽我十郎からつけたんじゃないかな。
全国的には和歌山の南髙が有名だけど、じつは梅って全国各地で栽培されているんだよ。
ただ、面白いのが、同じ生産者が同じように作ったつもりでも、産地が変わると気候風土の影響でごつごつした見た目をしたり形がちょっと違ったものができたりするんだよね!
十郎もまた埼玉の越生や群馬など比較的神奈川に近い場所から苗木が欲しいと言われて送ったりしてるけど、やっぱりその土地で発見された品種というのはその気候や風土に適した木になろうとした結果だからね。
つるっと綺麗な外観と評判のはずの品種が別の土地だとごつごつした外観になったら当然、その土地で作ろうなんて生産者はいないだろうね!
小田原市は梅を全面に出して宣伝してくれて、「十郎梅の小田原市」となるように頑張ってくれているんだけど、それでも全国の産地に比べたら生産量が圧倒的に少ない。
需要はまだまだあるんだけどね…。
全国規模の梅会議に出れば小田原は「その他の産地」になってしまって席もない。(笑)
「十郎」という名前も「南髙」に比べるとまだまだ知られていないし、全国に広めよう!と思っても、頑張って県内と東京都に出荷できるかな?と思うくらいだから、全国に梅を売れる量もない、まだまだ貴重な梅なんだよ。
梅農家が惚れた味
十郎梅の特徴といえば、梅干に最適で、果肉がやわらかくて味もいい!
梅農家が味と見た目に惚れて広めた梅だから、絶対的な自信があるよ。
十郎梅を食べたから、もう他の梅干は食べれないって人もいるからね。
よく十郎梅は梅干を作る際に皮が破れやすいと言われるけど、恐らくそれは漬けるのが遅い可能性があるね。南髙梅は遅くつけるのがやわらかくつかるポイントだけれど、十郎は早く漬けないと皮がやぶける原因になるよ。
素人が梅をつけても十郎梅だと失敗しにくいのが最大の特徴だからね。もし毎年十郎梅だと梅干し作りに失敗しちゃうって人は少し早めに漬けたらどうかな?
生産者としてもメリットが多くて、受粉・受精がいいので非常に作りやすいね。見た目も綺麗だし、販売しやすい。芽吹きもいいので自分の理想とする木を作りやすいし、漬け梅としての加工もしやすくて嬉しい梅だね。
このあたりでは受粉の時期になるとまんべんなく結実を促すために蜂を畑に入れている畑も多いね。うちも蜂屋さんにお願いをしているよ。でも、別所会場だけは2月に「梅まつり」が開催されるのでみんなで「収量は落ちるけど安心して花を楽しんでもらえるように」と梅生産者が決めて控えているんだ。何もしなくてもある程度虫や鳥や風が花粉を運んでくれて受粉はするけど、蜂を入れた畑と入れていない畑では収量が全然違うね。
あとは剪定の腕次第なところもあるね!(笑)
もう何年も梅栽培をしてるけど、今でも切るかどうか迷うことがあるんだ。一度切ってしまったら後から後悔しても遅いからね。切り過ぎないようにしています。切るかどうか迷った枝があったら残しておいて翌年様子をみて、後から切ってもいいしね。
剪定してから実がなるまで3年はみなきゃいけないし、切りすぎるとならなくなるのが一番生産者にとっては怖いから、いかに成り枝をおいておくかがポイントになるね。
去年は暑さもあって収穫期に短期間で梅の実が木から落ちちゃって、十郎は特に早くって…梅は年々出荷も早くなっていくんじゃないかと思っているよ。
2019年は遅霜によって成長していた実が傷み壊滅的な収量だったのに対して、2020年は逆に暖かい日が続いていたところに少し寒さがきて、霜もなかったけれど実が傷んで半減、さらには5月に強い風が吹きつけて収穫前に実が落ちてしまって収量は激減してしまったから、近年では一番の不作年だったんだよ。
ただ、生産者は同じ場所ばかりに畑を持っているわけじゃないからね。山の中腹の畑や近くの中河原周辺は豊作だったりするからわからないもんだよね。
和歌山も同じく収量が少ない状態であることから一番大きかった要因は冬の異常気象だったと思う。
そういえば、最近みかんの木が寒くて枯れたなんて話も聞かないし、酸味もどんどんなくなってきているように感じるね。以前より平均気温が3度ほど暖かくなっていると聞くし。
昨年は全然梅干しを漬けられなかったと言う和昭さんが加工場の漬け樽をみせてくれました。
今まで加工場は漬けた梅が入った樽でいっぱいだったそうなのですが、見たところ部屋対して三分の一もありません。
梅の木はある程度適応能力があり、不作が続いたからといってもうその土地で育てられないと決め付けるには早いといいます。
「梅の木にも早く今の小田原の環境を覚えてもらわないと」と言う和昭さん。
今年の花の咲き具合は今のところ順調。果たして今年の梅の成りはどうなるのか、豊作を祈るばかりです!